ヘドラは好きですか?
グロテスクな造形、ショッキングな映像、独特な作風で、ゴジラシリーズにおいて、もっとも異色とされる作品『ゴジラ対ヘドラ』(監督:坂野義光/1971年)で登場した怪獣がヘドラです。1971年7月24日に公開されて、今年で50年になります。
『ゴジラ対ヘドラ』は11作目。公開の前年、ゴジラの生みの親である円谷英二特技監督が亡くなってから最初のゴジラ映画であり、シリーズの新たなスタートを切った作品となりました。
前作「ゴジラ・ミニラ・ガバラ オール怪獣大進撃」 で子どもにおもねった作風にはすでに限界が来ていましたし、当時9歳だった子どもの僕でさえ、こんなのが見たいんじゃない、と思ったほどでした。
そんな時に登場した『ゴジラ対ヘドラ』は、公害(いまなら環境破壊)をテーマに、ヒッピー文化に影響を受けたサイケデリックなファッションや音楽などの文化、モラトリアム世代の生き方など、世相を色濃く反映し、社会問題に鋭く切り込んだ作品でした。
『ゴジラ対ヘドラ』の公開当時は各地で環境汚染が深刻な問題となっていました。その象徴的な存在が四日市のコンビナートのスモッグであり、田子の浦でヘドロでした。ヘドラはそこから生まれます。
ヘドラははじめはおたまじゃくしのような姿で海に姿を表します。その後、姿を変化させ陸に上がり、煙突の煙を吸い、クルマをのみこみ、ますます巨大化し、今度はそれらの汚染物質を硫酸ミストとして街に撒き散らし、汚染を拡大し、人々を白骨化させていきます。
汚染を拡大するヘドラの影響を通じ、四日市や田子の浦のような限定的なエリアのみに汚染の苦しみを強いていることを子どもながらに理解しましたし、悪いのはヘドラだけじゃなく、汚染を垂れ流している企業やそれを享受する僕たち、だと気付かされました。
そこに立ちはだかったのがゴジラでした。
ゴジラは自分よりも巨大で、砕け散っても再生でき、陸海空を自在に変体する体を持ち、さらにヘドリューム光線、ヘドロ弾といった武器を繰り出すヘドラに苦戦します。まさにゴジラ史上に残る最強の敵といえます。それでもゴジラは苦闘の末、ヘドラの撃破します。(賛否ありますが)ゴジラが空を飛ぶという大きな進化も見せます。
大阪への行き帰りに新幹線の中から見えるこれらの都市の汚染は、坂野監督に強く影響し、こうした社会悪をテーマとした本作へと醸成されていきます。
シリーズの記念すべき作品に『ゴジラ』(監督:本多猪四郎/1954年)以来の強いメッセージ性を持った作品が出てきたのは、振り返ればシリーズが継続する上で大変重要な位置づけとなったと言えるのではないかと思います。
「世界最悪の50本」という書籍で「ゴジラ対ヘドラ」が選ばれたのはまさにヘドラの硫酸ミストのごとく、それだけ毒を吐いた作品だったのだろうと理解しています。
公害に反対する世相、そして坂野監督の環境問題への強い憤りが作品に反映したものとして強く記憶に残ったのが、ゴーゴー喫茶で貝殻模様のエロいボディスーツで踊るヒロインの富士宮ミキが歌う「かえせ!太陽を」(麻里圭子 with ハニー・ナイツ&ムーンドロップス)のメロディと歌詞です。
水銀、コバルト、カドミウム
ナマリ、硫酸、オキシダン
シアン、マンガン、バナジウム
クロム、カリウム、ストロンチウム
汚れちまった海 汚れちまった空
生きものみんな いなくなって
野も 山も 黙っちまった
(中略)
かえせ かえせ かえせ かえせ
みどりを 青空を かえせ
かえせ かえせ かえせ
青い海を かえせ かえせ
(歌詞より一部抜粋)
といったもの。作詞した坂野監督の思いが主題歌に強く込められています。
ゴジラの復活を望んでいた坂野監督は3D作品の企画を立て、実現に奔走しますが実現には至りませんでした。その後、坂野監督の情熱は海を渡り、現在世界で大ヒットしているモンスター・ヴァースシリーズへと繋がります。
ついには「GODZILLA ゴジラ」(監督:ギャレス・エドワーズ/2014年)がレジェンダリー・ピクチャーズにより製作・公開され、晴れて坂野監督はエグゼクティブ・プロデューサーを務めました。その後、坂野監督は「新ヘドラ」構想に取り組みますが、志半ばで惜しくも2017年に他界しました。
その後、「ゴジラ キング・オブ・モンスターズ」(監督:マイケル・ドハティ/2019年)には製作総指揮として、「In memory of Yoshimitsu Banno(1931-2017)Haruo Nakajima(1929-2017)」とエンドクレジットに掲出され、ゴジラ第一作からの操演を担当した中島春雄とともに献辞が捧げられました。
坂野監督が「ゴジラ対ヘドラ」を通じて訴えた、地球への、人類への愛はいまも生き続けており、それが現代の多くの人々にも伝わっているのだと思います。「ゴジラ対ヘドラ」は50年を経て、カルトな人気の怪作から、強いメッセージを持ちながらも楽しめる快作として、これからも多くの人々に強い印象を残していくだろうと信じています。
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