2012年5月16日

2013年 第55回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展    日本代表作家が田中功起さんに決定

『A Whole Museum Could Be Used at Once』田中功起
2011 横浜美術館(「横浜トリエンナーレ 2011 OUR MAGIC HOUR」展示風景)
Courtesy of the Artiest, Vitamin Creative Space, Guangzhou and Aoyama Meguro, Tokyo
写真:チバヒデトシ

2013年開催の『第55回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展』における日本代表作家に田中功起さん、日本館キュレーター(コミッショナー改め)に東京国立近代美術館美術課長の蔵屋美香さんが決定したと主催の国際交流基金が発表(pdf)しました。

指名コンペには、杉本博司(片岡真実)、オノ・ヨーコ(神谷幸江)といった大御所も参加していましたが、(個人的には個展では見てみたいものの)いずれも大方の内容が予測できてしまうような感じもあり、その中でも予測不能な可能性を感じる田中さんに決まったのは大いに期待できるものと思います。

田中さん、蔵屋さんが提案した展示内容は、大震災以後の日本が世界に向けてどのようなメッセージを発するべきかというテーマを持つものです。他のコンペ参加作家には震災の瓦礫を持ち込むものなど、直接的なメッセージを展開するものもありましたが、田中/蔵屋案はちょっと視点が異なっています。震災時、首都圏にいた人々の多くは、一定の震災体験や少なからず放射線被害を被っているものの、被災地から遠く、被災体験もそれほど濃いものを持ちません。これは遠く離れた国や地域に住む人々(ヴェネチア・ビエンナーレに来場する人々もそうでしょう)と多くは変わりません。そうした人々が、なんらかの形で経験を共有するための可能性を探る展示プランとなっています。

展示は経験共有のためのプラットフォームとなる事を願って作られるもので、震災のさまざまな側面に直接的、間接的に言及するいくつかの「練習問題(exercise)」を設定し、それらの「練習問題」に複数の人々からなるグループが取り組み、その協働作業の過程を映像作品にまとめます。これらの映像を毛布、アルミシート、木材といった指定された素材のみを使用して建築関係者のグループがデザインした個々のブースに展示します。練習問題は、例えば、オフィスワーカーたちが高層ビルの非常階段をできる限り音を立てず大勢で下りる、電気関係の仕事に従事する人々が“もしこの職業に就かなかったら何をしていたと思うか”を話し合う、修復家たちが壊れた複数の陶器の破片から一つの陶器を復元する、といったもの。田中さんはステートメントにおいて

「いまこの日本において、「ただ階段を上り下りする」という行為は別様に読み替えることができるはずだ。それはいわば電気(=原子力発電)に頼らないという態度でもある、もちろん本人たちにはその意図がないのだとしても。たくさんのひとが階段を下りる姿を東京の駅で見かけたとき、ぼくにはそれがある種のデモンストレーションに見えた。新しい行動を起こすのではなく、いままでのぼくらの行為を見直し、抽出し、背景を読み替えること。そうすることによって、特定の地域における特殊な問題は広く一般化され、誰も無視することができなくなるだろう。」

と語っています。田中さんの言うように、直接的なメッセージでなくとも、日本人の、日本社会の行動はどんな些細なものでも、意味のあるものに見えてしまうだろうと僕も感じています。また、複数の人々が問題に取り組むという、いわば集合知的な要素を含んだ、今日的なアプローチも興味深いと思います。ぜひ、このすべての日本人に深く関わる展示に、なんらかの方法で参加できるアプローチを加えてほしいものだと思います。


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