2023年10月27日

ヴィム・ヴェンダースがふたたび東京を描いた『PERFECT DAYS』


第36回東京国際映画祭のオープニング作品として上映された『PERFECT DAYS』。名匠、ヴィム・ヴェンダース監督が手がけ、役所広司が演じるトイレ清掃員の日常を描く異色作。本作で主演と制作総指揮を務めた役所は、第76回カンヌ国際映画祭において男優賞を受賞した。ヴェンダース監督は黒澤明、小津安二郎といった日本映画の監督を敬愛しており、小津安二郎をテーマにしたドキュメンタリー「東京画」(1985年)を撮っている


[ストーリー]
東京スカイツリーの足元に近い古ぼけたアパートの一室に暮らす、老年にさしかかったひとりの男・平山(役所広司)。

彼の一日は早朝、鳥の囀りと隣人が通りを箒で掃く音ではじまる。顔を洗い、歯を磨き、ユニフォームであるツナギを身につける。一日に必要な小銭を握り締め、自販機で缶コーヒーを買うと、作業道具を乗せた軽トラックで作業現場へ向かう。

彼の仕事は公共トイレの清掃員。彼の仕事ぶりは丁寧で心がこもっているように見受けられる。作業中であっても、利用者を最優先にし、若い仕事仲間のタカシ(柄本時生)が真面目に作業するように促す。

仕事の合間、カセットテープで聴くちょっと昔の洋楽や気が向いたら木漏れ日にレンズを向けるのが楽しみのようだ。仕事が終わると客の少ない早い時間に銭湯を済ませ、地下にある小さな店で食事をし、歌の上手い女将(石川さゆり)のいる小料理屋で少しの酒を楽しむ。夜は寝床に入ると行きつけの古本屋で物色した、フォークナーの「野生の棕櫚」、幸田文の「木」といった書物を読み耽る。

なるべくなら他者と関わりを持たないようにしているようにも見えるが、仕事も暮らしも小さな幸せに満ちているように見える。

そんなある日、彼のアパートにひとりの少女が訪ねてくる

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脚本、監督、役所さんの演技、いずれも素晴らしいのひとことに尽きる。市井の人(それもどちらかと言えば底辺と言われがちの)の日常を淡々と描いているのだが、その日常の中に、時折、彼のバックグラウンドが仄見える。なにか大きなものを抱え、どこかから去ってきた人のようではあるが、そこについては一切掘り下げない。

タカシやアヤ(アオイヤマダ)、姪のニコ(中野有紗)といった年の離れた人々との交流など、いくつかの出来事は起きるが、またいつもの日常に戻っていく。彼の過去を掘り下げないのは、たぶんそれはいまの彼には関わりのない(もしくは距離をおきたい)ことで、いまのささやかな暮らしを彼が大事にしているからに相違ない。

ラスト、いつものように軽トラックを走らせながら見せる彼の複雑な表情に、なぜか泣けてしまった。そし彼の人生を少しだけ羨ましいと思っている自分がいた。

ともすれば、この日本的な曖昧なストーリーや演技には海外の方は戸惑いを覚えるかもしれないが、日本と縁深く、日本人の機微をよく知るヴェンダース監督の表現だからこそ、そこを乗り越えて伝えることができると信じたくなる。

ヴィム・ヴェンダース監督はアメリカを舞台にしたロードムービー「パリ、テキサス」で第37回カンヌ国際映画祭のパルム・ドールを受賞、キューバ音楽を題材にしたドキュメンタリー「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」が第72回アカデミー賞で長編ドキュメンタリー映画賞にノミネートされ、世界で20以上の賞に選ばれるなど、世界的な評価の高い、まさに名匠と言える監督だ。

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