2021年11月30日

“モーゼスおばあさん” が描く幸せの風景 『生誕160年記念 グランマ・モーゼス展―素敵な100年人生』世田谷美術館で開催中

 《サンタクロース Ⅰ》1960年(99歳)油彩/合板


休日、世田谷美術館でグランマ・モーゼスに触れて、砧公園を散歩、なんていかがですか?


展覧会のキービジュアルは《シュガリング・オフ》


個人的なイメージとしては、モーゼスといえば田舎の暮らしと自然の風景。絵から伝わってくる温かさは他にはないものがあり、人の心を捉えて離さない魅力があります。

生誕160年を機に特別に企画された本展では4章構成で、最初期から100歳までの作品、愛用品や関連資料まで、日本初来日を含む約130点を展示しています。




クリスマスに関わる作品が展示されている第3章「季節ごとのお祝い」
《川を渡っておばあちゃんの家へ》ほか



ここでは、この時期、もっともモーゼスらしい(と個人的に思っている)クリスマスの季節の風物や暮らしを描いた作品にフォーカスしてご紹介します。


100歳を前にモーゼスは子ども向けの絵本の挿絵に取りかかります。冒頭に紹介した作品
《サンタクロース Ⅰ》はモーゼスが亡くなってまもなくの1962年にランダムハウス社から出版された『クリスマスのまえのばん』(クレメント・C・ムーア:文)の表紙に使われました。



《クリスマスツリーを探しに》1946年(85歳)油彩/合板



《クリスマスツリーを探しに》。クリスマスが近づくと皆で森にツリー用のもみの木を採りにでかけるのがすばらしい喜びだったそうです。



《家のクリスマス》1946年(85歳)油彩/合板



《家のクリスマス》。老いも若きもペットの動物も、みなでクリスマスを祝う宴の様子です。あかあかと暖炉が燃やされ、中央のテーブルには大きな肉が運び込まれています。



《来年までさようなら》1960年(99歳)油彩/合板



ニューイングランドの田舎で暮らすごく平凡な農婦からアメリカの国民的画家になったグランマ・モーゼス(アンナ・メアリー・ロバートソン・モーゼス)。

コレクターのルイス・J・カルドアが偶然、ドラッグストアに飾ってあったモーゼスの作品に出会う。これをきっかけに美術館に展示され、モーゼスが80歳の時にニューヨークではじめて個展が開かれることに。

ニューイングランドの自然と農村の暮らしを温かなまなざしを描いた作風は、大恐慌や大戦に疲弊していたアメリカの人々の心をとらえ、一躍人気作家に。

モーゼスの描いた作品からは温かさや懐かしさが伝わってきます。描かれた画面にはさまざまな要素が盛り込まれています。《家のクリスマス》では、サンタクロースの前でプレゼントで遊ぶ子どもたちや暖炉でパイプを燻らす人、歌を歌っている人、忙しく食卓の準備をする人など、さまざまです。

モーゼスが描いたこれらの絵は、モーゼスが経験した幸せな記憶によって紡がれたものであり、だからこそ、僕たちの幸せな記憶と共鳴し、伝わってくるのではないでしょうか。

《虹》1961年(100歳)油彩/合板


《虹》。101歳を目前に絵筆を握り続けていたモーゼスの最後の完成作。これまでの作品と変わらず、活き活きを働く人々の姿が描かれ、木々の向こうには虹がかかっています。これ以上にない幸せを感じる絵です。



《曾孫と100歳の誕生日を祝うフォーク・アート画家グランマ・モーゼス、
イーグル・ブリッジ、ニューヨーク》
コーネル・キャパ撮影 1960年 ゼラチン・シルバー・プリント


世田谷美術館エントランスに飾られた《家のクリスマス》を前にしたフォトスポット




世田谷美術館。併設のカフェでは本展特別メニューなどが用意されています


最後に誤解を恐れずに言えば、特別な美術教育を受けず、自分の経験と感性だけで、独自の作風を確立したグランマ・モーゼスはまさに“アール・ブリュット”の人と言えるのではないかと思います。

『生誕160年記念 グランマ・モーゼス展―素敵な100年人生』特設ホームページ

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