2020年6月1日

偉大なる「包む」アーティスト、クリスト逝く

「クリストとジャンヌ=クロード アンブレラ 日本=アメリカ合衆国 1084-91」
(2016年/水戸芸術館)のレセプションでのクリストさん
「クリストとジャンヌ=クロード アンブレラ 日本=アメリカ合衆国 1084-91」
(2016年/水戸芸術館)より

偉大なる「包む」アーティスト、クリストが2020年5月31日にニューヨークの自宅で逝去しました。84歳でした。これまで、さまざまなアーティストに出会ってきましたが、僕が本当の意味で現代美術に出会ったと言えるのが、30年前のクリストとの出会いでした。

クリストは、パリのポンヌッフを包んだ《The Pont Neuf Wrapped》(1975-85)や、ドイツ・ベルリンの国会議事堂を包んだ《Wrapped Reichstag》(1971-95)などの巨大建造物や、コロラドの谷にカーテンをかけた《Valley Curtain》(1970-72)やマイアミの島々をピンクや青の布で囲った《Surrounded Islands》(1980-83)といった大自然を相手とした作品など、さまざまな壮大なプロジェクトをパートナーのジャンヌ=クロードとともに長年にわたって手がけてきました。


茨城でのクリストとの出会い


1991年、茨城・常陸太田の田園地帯に1340本の青色の傘を、カリフォルニアの砂漠地帯に1760本の黄色い傘を開く、日米同時のプロジェクト《The Umbrellas》(1984-91)が実施されました。高さ6m、直径約8.66mもの巨大な傘を設置するこのプロジェクトは大変な資金と労力を必要とするもので、当時、大変な話題となりました。さらに、日本では台風による一時中止や、アメリカでは強風による不幸なアクシデントに見舞われ、予定していた会期を待たずに終了することとなりました。


「クリストとジャンヌ=クロード アンブレラ 日本=アメリカ合衆国 1084-91」
(2016年/水戸芸術館)より
「クリストとジャンヌ=クロード アンブレラ 日本=アメリカ合衆国 1084-91」
(2016年/水戸芸術館)より
「クリストとジャンヌ=クロード アンブレラ 日本=アメリカ合衆国 1084-91」
(2016年/水戸芸術館)より


このThe Umbrellasの最終日、僕は友人に誘われて、雨のなか開催地に向かいました。会場へ向かう車の大渋滞のため、数時間かかって、開催地に着いたのは終了時間ぎりぎりでした。降りしきる雨の中、田圃や川の中に巨大な青色の傘が立つ幻想的な景色は、いまでも目に焼き付いています。

これまで、キース・ヘリングをはじめ、伝説的なアーティストと出会って、時には一緒に酒を飲んだりといった、幸せな偶然に遭遇していますが、茨城でも、たまたま立ち寄ったインフォメーションで、クリストとジャンヌ=クロードのおふたりに出会いました。なんだか、普通にいたので、最初は外国人の観光客?と思ったのですが;; その時、傘に使っていた青地の布に配っていたのですが、その布にサインをいただきました。


「クリストとジャンヌ=クロード アンブレラ 日本=アメリカ合衆国 1084-91」
(2016年/水戸芸術館)より
「クリストとジャンヌ=クロード アンブレラ 日本=アメリカ合衆国 1084-91」
(2016年/水戸芸術館)より
「クリストとジャンヌ=クロード アンブレラ 日本=アメリカ合衆国 1084-91」
(2016年/水戸芸術館)より


それから19年。残念ながら、日本ではクリストのプロジェクトは行われず、作品に触れる機会もありませんでした。2009年にはジャンヌ=クロードが亡くなりました。21_21 DESIGN SIGHTのディレクターのひとりで、クリスト夫妻と個人的に交流のあった三宅一生さんは日本での個展開催をクリストに提案。すぐに了承され、翌年2010年に「クリストとジャンヌ=クロード展 LIFE=WORKS=PROJECTS」が21_21 DESIGN SIGHTにおいて行われました。内覧会に参加した際、クリストと話をする機会があり、The Umbrellasの最終日にほんのちょっとだけお目にかかったことを伝えることができました。

さらにその6年後の2016年。今度はThe Umbrellasの開催地である茨城の水戸芸術館で行われた「クリストとジャンヌ=クロード アンブレラ 日本=アメリカ合衆国 1084-91」のレセプションに参加することができ、クリストとほんのちょっとだけ、話すことができました。その際、「また作品の前で会いましょう」というようなことをおっしゃっていただき、再会を心に誓いました。

その直後となる、同年初夏、イタリアのイゼーオ湖で、人が歩ける黄色い布を湖の上に橋のように渡した《The Floating Piers》(2014-16)が実施されました。実はThe Floating Piersは《THE DAIBA PROJECT》として、東京・お台場の海で実施される計画がありました。その後、40年来のプロジェクトで恒久施設として計画進行中のアラブ首長国連邦でプロジェクト《The Mastaba》(1977-)のミニプロジェクト(もしくは習作?)と言える《The London Mastaba》が2018年に行われました。残念ながら、そのどちらにも足を運ぶことがかないませんでした。



「クリストとジャンヌ=クロード展 LIFE=WORKS=PROJECTS」
(2010年/21_21 DESIGN SIGHT)より

「クリストとジャンヌ=クロード展 LIFE=WORKS=PROJECTS」
(2010年/21_21 DESIGN SIGHT)より


パリの凱旋門とアラブの墳墓は実施


そんなこともあって、今年、2020年4月に予定されていたパリの凱旋門をシルバー・ブルーのポリプロピレン素材と約7,000mの赤いロープで包み込む《L'Arc de Triomphe, Wrapped》(1962-)は、ぜひこの目で見たいと思い、渡仏を予定していましたが、ご存知のように世界を襲ったCOVID-19のために、開催延期となってしまいました。その直後の訃報となりました。

残念ながら、《L'Arc de Triomphe, Wrapped》や《The Mastaba》を見ることなく、クリストは逝ってしまいましたが、彼らの作品は作家が不在となっても実施されます。その事については、彼らの死後も進行中のアートワークが継続されることを常に明らかにしてきていたので、間違いなく実施されるでしょう。《L'Arc de Triomphe, Wrapped》は、2021年9月18日から10月にかけての実施に向けて進行中です。


現時点で彼らの公式サイトにおいて「Works In Progress」としてリストされているのは、《L'Arc de Triomphe, Wrapped》と《The Mastaba》のふたつのみです。この2つのプロジェクト完了が彼らの作家活動の終了となるのか、それとも公表されていないプロジェクトがあるのかはわかりませんが、ぜひこの目でクリストとジャンヌ=クロードの作品をひとつでも多く、目に焼き付けることができればと思います。


Christo and jeannec-laude 公式サイト
https://christojeanneclaude.net

0 件のコメント: