2013年11月30日

これは神戸に行くしかない! 巡回展なしの『ポンピドゥー・センター・コレクション展』が1月開催

年明け2014年1月18日(土)より、最新の現代美術作品を集めた『ポンピドゥー・センター・コレクション フルーツ・オブ・パッション』展兵庫県立美術館において開催されます。ニューヨーク近代美術館と並んで、近現代美術における世界的な拠点として知られる、フランス・パリにあるポンピドゥー・センターのパリ国立近代美術館に所蔵されている最先端の現代美術作品を紹介する展覧会です。


ポンピドゥー・センター外観
© Centre Pompidou / Georges Meguerditchian


今回、紹介される作品は同館が友の会からの寄贈によって取得した19作家25点で、イザ・ゲンツケン、エルネスト・ネト、ツェ・スーメイ、レアンドロ・エルリッヒらヴェネツィア・ビエンナーレといった国際的な美術展で評価を得ている、もっとも注目されている作家が登場します。さらにダニエル・ビュレンやサイ・トゥオンブリー、ゲルハルト・リヒターといった現代美術の巨匠と言える6人の作家の作品6点も合わせて紹介するものです。


《私たちはあの時ちょうどここで立ち止まった》エルネスト・ネト 2002 © Ernesto Neto
Photo © Centre Pompidou, MNAM-CCI / Georges Meguerditchian - /Dist. RMN-GP

《エコー》ツェ・スーメイ 2003 ©Su-Mei Tse

たしかに興味深い展覧会なのですが、わざわざ神戸までいかなくとも東京での巡回を待っても遅くないでしょうと思った方。残念! 本展はポンピドゥー・センターと兵庫県立美術館との共同によりオリジナル企画で他館へ巡回する予定はないのです。

もっともどの作家も東京なら見られる機会もそう少なくないでしょうと思われるかもしれません。実際、僕もエスパス ルイ・ヴィトンでのエルネスト・ネト、水戸芸術館でのツェ・スーメイも見たし、と思ったのですが、イザ・ゲンツケンは未見だし、大好きなレアンドロ・エルリッヒはどんな作品が出てくるのだろう、それにダニエル・ビュレンの「二度、繰り返すことはない」はどんなんなるんだろうとか考えると、やっぱり行くしかない!と思ってしまうのです。

それにポンピドゥー・センターの友の会という、アマチュアながら間違いのない眼力を持った美術愛好家のみなさんが太鼓判を押した作品ばかりをこれだけ一同に会した展覧会はそうはないだろうと思います。


《無題》サイ・トゥオンブリー 1969 © Cy Twombly Founation
Photo © Centre Pompidou, MNAM- CCI / Philippe Migeat  / Dist.RMN-GP

また、開催初日の翌日、1月19日(日)には同館ミュージアムホールにおいて行われる、ポンピドゥー・センター国立近代美術館長のアルフレッド・パックマンさん、サンフランシスコ近代美術館長のニール・ベネズラさんという、アートシーンのキーパーソンのみなさんが登壇する国際シンポジウム「あさっての美術館」も見逃す訳にはいかないだろうと思います。

ところで、サブタイトルになっている「フルーツ・オブ・パッション=情熱の果実」の意味ですが、これは本展の中核をなす25点の作品が2002年から始まった国立近代美術館友の会の「現代美術プロジェクト」によって収蔵された作品から選ばれたもので、友の会のメンバーとポンピドゥー・センターの「情熱の果実」が結実したものだからという事です。

国立近代美術館友の会(le Societe des amis du Musee national d`art moderne)とは1903年にリュクサンブール美術館を支援するために生まれた組織をベースに設立されたもので、当時は100名あまりのメンバーでしたが、現在では900名ほどの組織になっています。また、その友の会において現代美術を充実させる事に特化したグループが現代美術プロジェクト(le Project l`art contempora/略称:PAC)で、60名ほどのメンバーが作品購入に関わっています。

日本の美術館支援において、こうした組織を持つのは考えにくいものですが、自分たちがお金を出して大いに口も出す事で、地元の美術館が充実する事に興味を持つようになったり、よりよい作品の収集に積極的に関われば、延いてはその地域の文化向上に繋がるのかもしれません。

彼らの “情熱の果実” がどういった形で結実したのか、お正月の神戸で目にしてはいかがでしょう?


《無題》イザ・ゲンツケン 2006 © Isa Genzken/Courtesy Galerie Daniel Buchholz, Cologne/Berlin
Photo © Centre Pompidou, MNAM- CCI / Georges Meguerditchian  / Dist.RMN-GP

《作業場》ファラー・アタッシ 2011 © Farah Atassi
Photo © Centre Pompidou, MNAM- CCI / Georges Meguerditchian  / Dist.RMN-GP

《ボーブールの雌猫》ジェイソン・ローズ 2004 © The Estate fo Jason Rhoades
Photo © Centre Pompidou, MNAM- CCI / Georges Meguerditchian  / Dist.RMN-GP

『ポンピドゥー・センター・コレクション フルーツ・オブ・パッション』
会期:2014年1月18日(土)〜3月23日(日)※月曜日は休館
会場:兵庫県立美術館 企画展示室
開館時間:10:00〜18:00 ※金・土曜は夜間開館(20:00まで)※入場は閉館の30 分前まで
観覧料:一般1,300円、大学生900円、高校生・65歳以上650円、中学生以下無料
主催:兵庫県立美術館、ポンピドゥー・センター、読売新聞社、美術館連絡協議会
後援:在日フランス大使館/ アンスティチュ・フランセ日本、兵庫県、兵庫県教育委員会、神戸市、神戸市教育委員会、Kiss FM KOBE
協賛:ライオン、清水建設、大日本印刷、損保ジャパン、パリ・ポンピドゥー・センター日本友の会
協力:エールフランス航空、NEC ディスプレイソリューションズ株式会社、ホテルオークラ神戸



          

2013年11月26日

MUSEUM PROFILE 01 : 群馬県立館林美術館

群馬県立館林美術館を南西側のアプローチからのぞむ。中央のレンガ色の建物は展示室1

群馬県立館林美術館は群馬県の第2の美術館として2001年10月26日に開館しました。館林市郊外の白鳥の飛来地として知られる多々良沼近くの水耕田跡地で、美術館裏手にあたる西側には多々良沼に注ぐ多々良川が流れる場所に位置する自然豊かな美術館です。


美術館裏手の多々良川に白鳥の姿が

美術館南側、多々良沼方向に広がる田園

3つの展示室、講堂などを収めた本館がレンガ色の三日月型をした展示室1を取り囲むように弧を描いて建ち、展示室1は広大な芝生に向けて開口した窓から自然光が気持ちよく入り込む印象的な空間です。同館の設計は第一工房(代表:高橋靗一)が担当し、2004年に第17回村野藤吾賞を受賞しています。

2009年に開催された企画展示「エコ&アート-アートを通して地球環境を考える-近くから遠くへ」で日比野克彦さんが制作した「DNA PLAIN」は広大な芝生広場と展示室1の特徴を大いに活かした大変印象深い展示でした。芝生広場から連続する形で来場者が植えた(貼り付けた)色紙の草原が展示室1に広がり、その延長の壁面には岐阜県美術館で長良川をモチーフに同様の手法で制作された「DNA RIVER」(2006年)があり、展示室内に広大な自然が広がっていました。

同展は非常に暑い館林の夏を少しでも涼しくという発想から、企画された展覧会でした。同館では2005年に同様に夏をテーマにした「夏の蜃気楼 自然をうつしだす現代の作家たち」展が開催されており、いまだに僕の中では好きな企画展の10本のうちのひとつになっています。


間近で見ると思いのほかダイナミックなフォルムの展示室1
芝生に面した窓が特徴的な展示室1

「DNA PLAIN」日比野克彦(2009)

敷地内には同館が「シロクマ」をはじめとした作品を収集しているフランス人彫刻家、フランソワ・ポンポンさんのアトリエを再現した別館があります。敷地内北側に林が設けられ、その林の中に立つ別館の佇まいはまるでフランスの田舎に迷い込んだようです。同館ではポンポンさんの代表作である動物彫刻を多数収蔵していますが、収蔵後に作家の死後に鋳造されたものであることがわかり、作家本人が死後鋳造を作品として認めない遺言を残している事から、公開できない残念な状況になっています。個人的には作家未承認のままの限定的なものでも構わないので、公開を期待しています。


『シロクマ』フランソワ・ポンポン

ブルゴーニュのワイン農家を思い起こさせるような別館。館内にはフランソワ・ポンポンのアトリエが再現されている


本館の弧の部分にはミュージアムショップやハッシュドビーフが評判のレストラン イル・コルネットがあります。設計は第一工房(代表:高橋靗一)で2004年に第17回村野藤吾賞を受賞しています。また、同館東側の道路沿いには館林市出身の彫刻家・藤野天光さんの作品をはじめ、彫刻作品38点が約2キロメートルにわたって屋外展示された「彫刻の小径」があります。


水盤を横切って隣接のレストランへ

同館へのアクセスは都内からなら東武鉄道の特急りょうもうで、浅草(北千住経由)から館林の所要時間は約60分です。渋谷・新宿方面からJR湘南新宿ラインを利用した場合、久喜で東武鉄道に乗換て約30分です。館林駅から美術館は巡回バスがありますが、本数が少ないので、タクシー(10分ほど)が便利です。また、天気がよければ、館林駅の隣、多々良駅から歩いてもいいでしょう。20分強とちょっと歩きますが、多々良川に沿って歩いて美術館に入って行くのはなかなか素敵な体験です。ただし、途中に休める場所はうどん屋さんぐらいしかないので要注意です。


東側駐車場より見た芝生広場美術館

2014年1月13日まで群馬県とゆかりのある作家・山口晃さんの個展『山口晃展 画業(ほぼ)総覧 お絵描きから現在まで』を開催中

『山口晃展』展示のようす

『山口晃展』展示のようす


[開館時間]
9:30〜17:00(入館は16:30まで)

[休館日]
毎週月曜日(祝日・振替休の場合はその翌日。ただし、4月29日から5月5日までの間および8月15日を含む週は休館しません)、年末年始(12月29日から翌年1月3日まで)。

[問い合わせ]
〒374-0076  群馬県館林市日向町2003
TEL 0276-72-8188(代表)FAX 0276-72-8338

        



『ヱヴァンゲリヲンと日本刀展』がついに東京で開幕。  3メートルを超えるロンギヌスの槍を見逃すな!

岡山でしか見られなかった、あの『ヱヴァンゲリヲンと日本刀展』が東京で初公開! プレス内覧会に参加してきました。

『ロンギヌスの槍』(三上貞直/橋本庄市 作)

2012年に「岡山の備前長船刀剣博物館 備前おさふね 刀剣の里」で開催されて話題となり、全国から岡山に詣でるエヴァファンが多くいたようですが、全国各地を巡回後、ついに11月23日に上野の森美術館でお披露目となりました。さらに来年2014年には国際交流基金の主催により、4月にフランス展、7月にスペイン展と世界に進出します。

本展は全国の刀匠たちが「ヱヴァンゲリヲン」とコラボレーションし、作中に登場するさまざまな武器を、伝統工芸の粋を集めた日本刀製作の技術で現実のものとして作り出し、日本刀文化とは関わりの薄かった層にも、伝統文化や技術の底力を感じてもらおうというもの。まさに「ものづくり」と「クールジャパン」が見事に合体した展覧会と言えます。

展示のメインとなるのは、全長3mを超える「ロンギヌスの槍」。男性でも抱えるのが精一杯というもので、屈指の実力者である刀匠・三上貞直さんとその弟子の金属造形作家の橋本庄市さんの共作によるもの。あまりの巨大さに三上さんの工房そのものを作り直して、製作に挑んだそうです。

ロンギヌスの槍の説明は不要かもしれませんが、エヴァの作中、特務機関NERVの地下空間に封印された第二使徒リリスの胸に突き刺さった状態で登場するもので、エヴァンゲリオンの身長よりも長いという設定にならい、本作品も長さを強調しており、DNA螺旋を想起させる“ねじり”も大きな特徴になっています。

ロンギヌスの槍。材料となる複数の金属を層状に重ねる技法でつくられたダマスカス鋼で作り出された地肌の模様「綾杉肌」が見事
エヴァンゲリオンレーシングのレースクィーンのみなさんも応援に駆けつけていました

見どころはロンギヌスの槍だけではありません。エヴァのアナザーストーリーとして「電撃ホビーマガジン」に連載されていた小説「エヴァンゲリオンANIMA」の作中に登場する、マゴロクソードとビゼンオサフネも展示されています。刀に詳しくなくとも時代劇などで、このふたつの名前には聞き覚えがあるだろうと思いますが、マゴロクソードは関孫六、ビゼンオサフネは備前長船が由来になっています。

関孫六とは美濃国(岐阜県)関地方で活躍した刀工集団で、なかでも兼元孫六の作る刀は山形の刃文「三本杉」と凄まじい切れ味で知られており、「最上大業物」の称号を与えられています。作中ではこの孫六を解析して生み出されたのがマゴロクソードで、ATフィールドを切り裂き両断する機能があります。


「マゴロクソード」(尾川兼國 作)。刀身には三本杉、拵は初号機のパーソナルカラーである青紫に染められ、伝統とポップが見事に融合している
「カウンターソード」(川崎晶平 作)。こちらも「エヴァンゲリオンANIMA」に登場した武器で日本刀の刀身と実体弾を打ち出す銃の要素を兼ねている

「ビゼンオサフネ」(松葉國正 作)。刀身だけでも144.2cmという大太刀。刃文「大乱れ」が美しい。

「プログレッシブナイフ剣型<角>」(石田國壽 作)。映画「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破」本編に登場したもので、柄は作中のデザインを忠実に再現している


また、「綾波レイ仕様 刀」や「渚カヲル仕様 刀」といった東京展から初出展の作品も展示されています。さらに東京展よりスタートした新プロジェクト「刀野薙ーNATAYANAGI」の製作過程も公開されています。「ヱヴァンゲリヲン新劇場版」のメカニックデザイナーの山下いくとさんが本展のために描き下ろしたオリジナルデザインの刀剣類を、刀匠・宮入 小左衛門行平さんが製作するというもので、2014年11月完成を目指しています。


「綾波レイ仕様 刀」(吉田政也 作)。東京展より初出展。綾波レイの白いプラグスーツやエヴァンゲリオンとのハーモニクス(精神のシンクロ)をモチーフに製作。

「渚カヲル仕様 刀」(加藤賀津雄 作)。東京展より初出展。最後の使者として静謐を望むところから海の青をイメージした拵に。

新プロジェクト「刀野薙ーNATAYANAGI」。写真は製作中の刀身。

この他にも短刀や脇指、兜まで展示されており、まだまだみどころはいっぱいです。ちなみに音声ガイド(500円)は葛城ミサト役の三石琴乃さんが担当しています。また、館内のカフェ喫茶 森で本展オリジナルメニューを注文すると限定版コースターがプレゼントされます。

最後に併催されている『海洋堂エヴァンゲリオンフィギュアワールド』に展示されていた見事なジオラマをご紹介します。









会期:11月23日(土・祝)〜12月23日(月・祝)
会場:上野の森美術館(上野)
開館時間:10:00〜17:00
入場料:一般1000円、大学・高校生800円、中・小学生600円
主催:上野の森美術館、産経新聞社、テレビせとうち、博報堂DYメディアパートナーズ、一般社団法人全日本刀匠会事業部
企画協力:グラウンドワークス
協力:テレビせとうちクリエイト、電撃ホビーマガジン ©カラー

[同時開催]「海洋堂エヴァンゲリオンフィギュアワールド」
入場料:一般500円、大学・高校生400円、中学・小学生300円

2013年11月25日

MUSEUM LISTページを追加しました




取材やプライベートで行った事がある美術館、博物館のリストです。今後は取材した時の写真やレポートなども加えていこうと思います。また、まだ行った事がないところで、ぜひ行ってみたいところも入れていこうと思いますので、行ってレポートしてほしいと思う美術館があれば、上記のFacebookの投稿やメッセージでリクエストしてください。可能な限り取材に行ってみたいと思います。

トップページのビジュアルにも使っているこの写真は
群馬県立館林美術館をiPhoneのパノラマ機能で撮影したものです。

2013年11月19日

天心、大観、観山。映画『天心』で知る、巨匠たちの壮絶な日々

現在、横浜美術館では『横山大観展 良き師、良き友』を開催中です。すでに内覧会で一度拝見しておりますが(Facebookにフォトレポを掲載しています)、後期展示に入って、結構な点数の展示替えもあったようで、会期終了となる今週末の11月24日までにはもう一度訪れたいところです。

と思っていたら、はやくも次回展『下村観山展』の案内が届きました。しかし、大観に続いて観山とは、横浜美術館、なんとも贅沢なプログラムが続きますね。今年は国立近代美術館での「竹内栖鳳展」とか、山種美術館での「速水御舟展」もよかったし、いつもはメディアアートとか現代美術一辺倒の僕にしては、なんとも日本画な年になってます。要するに、年月が経とうが、表現手法が変ろうが、良いものは良い、ということなんでしょうね。


「生誕140年記念下村観山展」は12月7日より横浜美術館で開催




ところで、この日本画の巨匠、横山大観、下村観山の師であり、日本近代日本美術の父、岡倉天心を描いた映画『天心』が先週16日よりシネマート新宿ほかで公開されています。




明治初期、廃仏毀釈の嵐が吹き荒れ、寺が焼かれ、仏像が破壊され、日本の美が危機的状況に瀕していました。そうした中、フェノロサとともに伝統ある日本美術の保護に奔走したのが、若き日の岡倉天心でした。映画はこの時の天心を描くとことからはじまります。

その後、日本美術学校(現在の東京藝術大学)の校長に就任した天心は、若き才能の育成に努めますが、みずからの不倫疑惑と学内での対立に巻き込まれ、辞任に追い込まれます(いわゆる美術学校騒動)。天心を慕う弟子たちはともに新しい日本画の創造を目指し、日本美術院を設立するも、国内での評判は芳しくなく、経営難に陥ります。彼らが新天地を求め、たどり着いたのが茨城県五浦海岸でした。天心はここを「東洋のバルビゾン」として六角堂を建立し、横山大観、菱田春草、下村観山、木村武山らは家族とともに五浦に移り住み、壮絶な創作の日々を送る事になります。





ここからは若干、ネタバレありです。

日本美術学校からの追放、日本美術院の失敗、五浦海岸への移住など、概ね史実に基づく事は歴史の授業なんかにも出てくるので、知っていたものの、いやはやこれほどの事だったとは映画を見てはじめて知りました。本当に壮絶。もっとも印象に残ったのが、若くして逝った菱田春草の壮絶な人生。観山や武山は人気が出て、暮らしに余裕がでるものの、春草は家族は食べさせる米もなく、隣村まで歩いて行って、食料を得ていた事も。


そして、そんな時にも天心は国際的に活躍しており、天心がこんなに破天荒で奔放な人物とは思っても見ませんでした(多分に演ずる竹中直人さんの演技もあるかもしれませんが)。協力関係にあった九鬼隆一男爵の夫人・波津子との不倫についてはどういった経緯のものだったかはわかりませんが、明治の世ではなまなかなことではなかったでしょう。さすが激動の明治を生きた男ですね。



その後、春草も画家として成功の道を歩み始めるところまで描かれますが、それから間もなく春草は38歳の若さでこの世を去ります。映画は天心を主人公としているものの、実は実質的な主人公は春草ではなかったかと思いました。


映画としては必ずしも百点満点とは言えませんが、岡倉天心とその弟子たちがどんな思いで、どれほどの苦労をして、日本の近代美術を切り開いていったか、肌で感じる事ができる貴重な作品ではないかと思います。映画『天心』は横浜・伊勢佐木町の横浜ニューテアトルでも上映していますので、「横山大観展」と合わせて、この週末にいかがでしょう?

映画『天心』オフィシャルサイト


        

2013年11月7日

アップル新社屋をデザイン。              ノーマン・フォスター卿のドキュメンタリー公開に

モダニズムのモーツァルト、ロンドンをガラスの都市に変えた建築家。いずれもイギリスの建築家、ノーマン・フォスター卿に冠されたものです。78才で世界を飛び回るフォスター卿がいま手がけているのは、世界が忘れる事ができない地に立つTwo World Trade Center、そしてアップルが本拠地のクパチーノに建設を予定している新社屋、Apple Campus2でしょう。

大切なのは、物としての建物ではない。
私の死後も残る哲学がないと。
未来へと続く、生きた哲学のデザイン。
それが何より難しいし、実現出来たら誇らしい。
ノーマン・フォスター

ドイツ連邦議会新議事堂・屋上ドーム(1992年修復完了)

フォスターのドローイング


この最も注目されている建築家のひとり、ノーマン・フォスターの建築人生を追ったドキュメンタリー映画『フォスター卿の建築術』が、2014年1月3日より渋谷アップリンクにおいて、さらに順次全国公開されることになりました。


ドキュメンタリー「フォスター卿の建築術」は2014年1月3日公開


世界貿易センタービルの跡地に建設されるTwo World Trade Center(2015年完成予定)

フォスターが手がけるApple Campus2。カリフォルニア州クパチーノ市議会で上映されたプレゼン動画で、スティーブ・ジョブズから「ノーマン、手伝ってほしい事があるんだ、といわれその3週間後に現地を訪れた」と依頼があったことを披露。「最初から円形の建物を考えていたのではなく、だんだんそうなっていった。いくつもモデルを作り、何度もプレゼンを重ねる中で生まれたものだ。その徹底したプロセスは今も続いている」と語っており、徹底した論議を重ね、正解を見い出していくジョブズらしいプロセスがフォスターとの間にもあった事がうかがわれます。当初は2015年には完成の予定でしたが、より完成度を高めるために、現在は2014年度の着工を目指しているとか。ちなみに、残念ながら本作ではApple Campus 2は登場しません。


Apple Campus2の完成予想図

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フォスターで僕が最初に思い浮かぶのは、やっぱり出世作の香港上海銀行・香港本店ビル。これは超高層ビルを太い鋼鉄フレームで支える構造が剥き出しになった、いわゆるハイテク建築と言われるもので、当時はフォスターと共に事務所を構えたリチャード・ロジャース(ロンドンのミレニアムドーム、日本テレビ放送網汐留本社など)、レンゾ・ピアノ(関西国際空港ターミナルビル、メゾンエルメス銀座など)とともに、ハイテク建築御三家として世界に知られる事になります。

香港上海銀行・香港本店ビル(1985年竣工)


その後、彼が手がけた東京・御茶の水に立つセンチュリータワーは香港上海銀行ビル同様、構造をファサードに露出させたものでありながら、それそのものは装飾的、様式的でポストモダンに近いものであったと思います。以降、フォスターの手がける建築は、ドイツ・フランクフルトのコメルツ銀行本店ビルや、MBFタワー(マレーシア・ペナン)やロンドン市庁舎ビル、さらにガーキンと呼ばれるスイス・リ本社ビル(ロンドン)のように、エコロジカルなものへと変化しました。


センチュリータワー(1991年竣工)

華やかな経歴に彩られているものの、2000年にロンドンに建設・開通したミレニアムブリッジは大きな横揺れの発生で3日後に閉鎖(2年後に再開通)されるという不名誉も受けています。


僕はフォスターを建築を通してしか知りえないわけで、フォスターがハイテク建築からポストモダン、そして最新のモダニズムへと変遷したその理由、それを支えてきた建築哲学に触れることができるかと思うと、いまから公開が待ち遠しいです。本作ではバックミンスター・フラーとの会話や、リチャード・ロジャース、リチャード・ロング、蔡國強、U2ボノといったフォスターに関わりの深い人々へのインタビューもあり、これもまた楽しみです。

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Apple Campus 2:
宇宙船を思わせる巨大な円形の特徴的なデザインと、2011年当時にクパチーノ市議会への提示をスティーブ・ジョブズみずから行い、ジョブズの肝いりで進められていた事から、大いに話題になりました。ヒューレット・パッカード社から取得した98エーカーを含む150エーカーの土地に建設されるもので、中庭を円で囲むように曲面ガラスで構成された4階建の建物。1万3000人の従業員が勤務し、3000人収容可能なホールも用意されるそうです。自家発電施設も建設され、100を超える電気自動車のチャージング・ステーション、果樹園を含む6000以上もの木が植えられる、フォスターが手がけるだけに、エコロジカルな発想も盛りだくさんな次世代のオフィスとなりそうです。



クパチーノ市議会でのスティーブ・ジョブズのプレゼンテーション


映画『フォスター卿の建築術』
2014年1月3日(金)より渋谷アップリンクほか全国順次公開

監督:ノルベルト・ロペス・アマド&カルロス・カルカス 
出演:ノーマン・フォスター、バックミンスター・フラー、リチャード・ロジャース、リチャード・ロング、他(イギリス/2010年/英語/74分)
配給:アップリンク


    

2013年11月6日

あの、Photoshopの魔術師(いろんな意味で)、 ラッセル・ブラウン氏が東京に降臨


ちなみに文中にある記事とは以下のような記事です。古いなぁ~。ってことは僕も古いけど、ブラウンさんも相当古いってことだよなぁ()

ITmedia2004年01月22日

ASCII.jp2006年12月12日

ASCII.jp2007年11月22日


8日のキーノートに参加できたら、レポートします!

2013年11月5日

クリスチャンと呼ばれたライオン

ベンツのコンバーチブルに乗ったライオン。この写真をいつどこで見たかは忘れましたが、随分と昔に見たことがあり、この写真は一体なんなんだろう、と思ったのを強く記憶しています。



ライオンと一緒にベンツに乗っているのはオーストラリア人青年のアンソニーとジョン。1960年代の終わり、彼らは旅先のロンドンの高級百貨店ハロッズで一頭の子ライオンに出会い、心を奪われます。二人はその子ライオンを買い取って、クリスチャンと名付け、アンティーク家具店に間借りし、二人と一頭の共同生活がはじまります。気立つがよく、頭もいいクリスチャンは町の人気者になり、テレビに出たり、有名人が会いにきたりと楽しい日々が続きました。

夢のよう日々も、いつかは終わりを迎えなければなりませんでした。ふたりはクリスチャンを彼のふるさとに返す決心をします。二人と一頭はアフリカのケニアへと渡り、「野生のエルザ」で知られる野生保護動物活動家のジョージアダムソンさんの手を借り、クリスチャンを野生に帰すリハビリを行い、彼はアフリカの大地へと放たれました。

それから一年。二人はもう一度クリスチャンに会いたいと、再びケニアを訪れます。危険を承知の行動でしたが、二人がクリスチャンに会いたい気持ちは抑えられません。二人はクリスチャンに出会えたのでしょうか?


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二人と一頭を追ったドキュメンタリー映画「CHRISTIAN THE LION」というDVDがあるのですが、残念ながら現在、日本では手に入らないようですが、YouTubeでダイジェストの映像を見ることができます。日本語を添えた動画もあります。





もっともいずれも相当端折っているので、じっくりご覧になりたい方は、アニマルプラネットが周囲の人々にもインタビューしたコンテンツがありますので、こちらをおススメします。


A LION CALLED CHRISTIAN(アニマルプラネット)

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動画をご覧になった方には説明は不要とは思いますが、クリスチャンに会いにケニアに行ったアンソニーとジョンはどうなったのでしょうか。

もうクリスチャンは二人を憶えていないだろう、という周囲の忠告を押しのけ、彼らはボスとして群れを率いるクリスチャンが住むエリアに入っていきました。名を呼ばれると岩陰から姿をあらしたクリスチャンは、彼らのもとに走り寄り、飛びつき、抱きついてきました。クリスチャンはふたりの事を忘れてはいなかったのです。さらにクリスチャンは野生に返ってから出会ったガールフレンドを二人に紹介しました。

翌年も彼らはクリスチャンに会いにケニアに行きましたが、立派に成長したクリスチャンは姿を見せたものの、以前のように二人に無邪気に飛びつくことはありませんでした。さらにその次の年、ジョンだけがケニアを訪れましたが、もうクリスチャンの姿を見ることはなかったそうです。

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40年を経た数年前、この二人の青年とライオンの物語は、YouTubeを通じて世界中で再び話題となり、多くの人々を感動させることになりました。





2013年11月4日

第26回東京国際映画祭を振り返って

第26回東京国際映画祭(TIFF2013)が終了して一週間が過ぎました。今年はこれまでのTIFFとは大きく異なるオープニングになったように感じました。

毎年恒例となっているグリーンカーペット。昨年までは六本木ヒルズの南側を貫くけやき坂にエコを象徴するリサイクル素材で製作されたグリーンカーペットが敷かれ、世界中からやってきた俳優、映画監督ら映画人たちが、坂下の六本木六丁目交差点に降り立ち、坂をのぼりながら沿道に集まった映画ファンの声援や握手やサインの求めに応じる。まさに映画祭のオープニングを飾るに相応しいイベントで、一般のみなさんと同様にプレスエリアから取材するプレス関係者も、その非日常を大いに楽しんでいました。

ところが今回のグリーンカーペットはけやき坂には敷かれず、六本木ヒルズの敷地内となる六本木ヒルズアリーナのみで行われました。アリーナのみにレッドカーペットを敷いて行うイベントは映画のプレミアイベントとして、頻繁に行われていて比較的珍しくなくなっていて、世界に向けて行うカーペットイベントとしてはなんとも地味で華やかさに欠けるものとなってしまっていたのは大いに残念でした。

例年はプレスエリアの一番下、つまり坂下にもっとも近く映画人を最初に撮影できる、芸能専門のプロカメラマンのみなさんが陣取るポジションにいて、とっても美味しいショットをおさめることができ、時には女優さんに目線をバッチリいただくこともできていました。が、今年はステージ前のプレスエリアで、なんとも動きのない写真しかおさめることができませんでした。これにはおなじプレスエリアにいたカメラマンの方が、「これじゃあ、オフィシャルと同じ絵しか撮れねぇじゃん」とボヤいていたのには、僕も大変同感でした。

それでもグリーンカーペットに登場した、長澤まさみさんや栗山千明さんといった女優のみなさんが大いに映画祭の花を添えていました。






男性陣も若手のイケメン俳優、とりわけ岡田将生さんがふたつの作品でウォークして大活躍でしたが、どうも登壇したみなさんはいまひとつノっていない、もしくは緊張しているというか、居心地の悪いような感じが伝わっていました。その理由がイベント終盤にわかりました。




世界の映画界のエグゼクティブであるフランシス・フォード・コッポラ監督が来日しているにも関わらず、中盤の登場という扱いだったのは、この方が登壇するためだったのかもしれませんね。もちろん、安倍総理の登壇は集まった映画ファンにはサプライズとして受け入れられ、大いに盛り上がりました。

しかし、2週間以上を経て冷静に考えると、けやき坂でのイベントを取り止めたのも、警備上の理由とかが考えられそう。例年はグリーンカーペットにはプレスIDは必要なかったにも関わらず、今年はIDなしでは入れないという扱い。これも、警備上の理由だったのかも。もちろんこれは僕の憶測に過ぎませんが……。

いずれにしても、映画ファンのための映画祭であるのに、百歩譲って政治家が登壇するのはいいとして、トリを務めるのはやはり映画人であるべきではないかと感じます。来年は例年通りのグリーンカーペットに戻していただいて、政治家のみなさんは劇場でのオープニングセレモニーのみの登壇とかにしていただければなぁと。

2013年11月3日

容量無制限のクラウドストレージ。       Bitacasaって使える!?





一部で話題になっている容量無制限のクラウドストレージサービスの「Bitcasa Infinite Draive」ですが、11月1日からまずは無料の10GB制限のサービスを試用しています。

現在、外出時に使用しているメインマシンのMacBook Airの主要データのバックアップ、自宅で平行作業用に使っているMacBookのデータの中から外出時に必要になる可能性のあるフォルダをバックアップしています。MacのクライアントソフトとiOSのクライアントアプリを使ってみていますが、どちらも快適に動作しています。

MacBook Airからアクセスしてみていますが、いまのところ、無線LANで接続されている状況ではノンストレスでデータの閲覧ができています。動画のデータも快適とまではいきませんが、速度さえ確保されていれば、スムーズに閲覧できています。メディアストリーミング機能があるためか、QuickTimeでは再生できない動画データもそのまま再生できています。

今後はスマートフォンからのアクセスに支障がないか、外出先で確認したいと思いますが、もっとも心配なのはこのあたりですね。サービスそのものに支障はなくとも、通信環境次第でサービスが使えなくなる可能性があるのは、どのストレージサービスも同様なんですけどね。

Google Chromeの拡張機能、Bitcasa Everywhereも使ってみましたが、画像を直接、Bitcasaにダウンロードできる機能はユニークですね。でも、あまり画像をダウンロードして使う事もないし、ダウンロードした場合はデスクトップにおいてなんらかの作業にすぐに使ったりするので、もうちょっとなんらかの目的がないと使わないかも。そもそもメインブラウザがSafariなので、このサービスそのものがSafariに実装されないとわざわざChromeを立ち上げて使う可能性は低いかなぁ。

ところで、現在は10GBの無料サービスを試用していますが、空き容量を見ると562.95TB!となっています。これって無制限サービス(年額99ドル/約9,800円または月額10ドル/約990円)の契約をした場合、これだけの空き容量が確保されているってことなんでしょうか?




容量無制限って響きは魅力的ですが、10GBで無料なら100GBで年額1,000円ぐらいでやってくれるといいなぁ、とか思ってみたり。

11月の「八重の桜」オープニング・コラボレーションは「テマヒマ展」のあの映像




テマヒマ展とは昨年、21_21 DESIGN SIGHTで開催された展覧会で、同展をレポートしたエントリー『「テマヒマ展<東北の食と住>」で触れる、知られざる東北の手業 ー 21_21 DESIGN SIGHT』がありますので、詳しくはそちらをご覧ください。テマヒマ展の映像や展示の一部は21_21 DESIGN SIGHTで現在、開催中の「日本のデザインミュージアム実現に向けて展」で見ることができます。


こういうタイトルになっていますが、実際のところ、21_21 DESIGN SIGHTが
オープン以来、開催されてきた展覧会を紹介する内容になっています。

こんな感じで映像も一緒に見られる、ミニ「テマヒマ展」状態で展示されています。

  企画展「日本のデザインミュージアム実現にむけて展」
  会 期: 2013年10月25日(金)〜2014年2月9日(日)
  休館日: 火曜日(12月24日は開館)、年末年始(12月27日 - 1月3日)
  開館時間:11:00 - 20:00(入場は19:30まで)
  入場料: 一般1,000円、大学生800円、中高生500円、小学生以下無料
       *15名以上は各料金から200円割引
       *障害者手帳をお持ちの方と、その付き添いの方1名は無料