2020年5月6日

モノクロの街がカラーに変わる時:『かくしごと』と『君は天然色』②

『A LONG VACATION』(amazon music)

夏のCMと言えば『君は天然色』


どハマリ中の『かくしごと』。
本編がよいのはもちろんなのですが、前回(夏アニメ?に夏の名曲:『かくしごと』と『君は天然色』①)、天才的(いや確信犯?)と言ったのは、エンディングに本家本元、大瀧詠一の『君は天然色』を持ってきたことです。なぜか、を紐解く前に「君は天然色」についてちょっとふれておきましょう。


たぶん年齢に関係なく、タイトルは知らなくとも「君は天然色」を耳にしたことはあるはず。これまで幾度となく、CMに使われてきたし、なにしろ、いままさにこれでも使われてます。






「君は天然色」を作曲し、歌っているのは、日本ポップス界の仙人、大瀧詠一。仙人と言うとのそっと出てきそうですが、残念ながら2013年に65歳でこの世を去っています。彼の活動スタイルもまさに仙人で、ほとんど自宅のある福生を出ず、音楽制作も自宅に組んだ福生45スタジオで、という仙人ぶりだったとか。


大瀧は伝説的バンド〈はっぴいえんど〉のメンバーでした。バンド解散後はプライベートレーベルの《ナイアガラレコード》で活動、その後、バンドのドラム担当で、解散後は作詞家として活動していた松本隆と組んで1981年にリリースしたのが歴史的名盤『A LONG VACATION』です。その一曲目に入っているのが『君は天然色』です。



歌詞を読んでみると、一番はこんな感じです。




モノクロームになってしまった、別れた女性との思い出。その思い出にもう一度、カラフルに色を点けてほしい。と女性との再会を夢見つつ、過去の思い出にすがっている(もしくはよりを戻したい!と思っている)。

という感じの未練男を歌っているような印象です。
まぁ、だいたい、男っていうのは、女性に比べて、未練たらたらなもんです。こういうのを心のうちで「わかるなぁ」と共感している男性も多いはず。そういう僕も、『A LONG VACATION』を聞きまくっていたあの頃も、ひと夏の思い出に浸っていたものです。


モノクロームからカラーの街へ


当時、松本隆は大瀧から作詞の依頼を受け、大瀧の誕生日である1980年7月28日のリリースを目指してアルバム制作を進めていました。ところが、病弱だった松本の6歳下の妹・由美子さんが心臓発作で倒れる、ということが起きてしまいます。松本は大瀧に事情を話して、他の作詞家を探すように伝えますが、大瀧は「アルバムなんていつでも出せる。発売は延ばすから、看病してあげなよ。今回のアルバムは松本じゃなきゃ意味がないから」と気長に待つ、と言ってきたのだそうです。

残念ながら、その数日後に松本の妹はこの世を去ってしまいます。26歳という若さでした。最期を看取った松本は、病院を後にして歩いた渋谷の街からは、色が消え去り、モノクロームに見えたそうです。そして松本は詞が書けなくなりました。

妹を亡くしたショックから立ち直るには相応の時間が必要でした。妹の死のショックが癒え、詩を書けるようになるまで、3ヶ月ほどがかかったそうです。それまで大瀧は松本が立ち直るのを待ってくれたのだそうです。そうして松本が書き上げたのが『君は天然色』でした。

このエピソードを僕が知ったのは、リリースから10年以上経ってからでした。このことを知ってしまうと、歌詞に出てくるフレーズは妹さんのことを歌っているようにしか感じなくなってしまいました。

亡くした時は、モノクロームに見えてしまった渋谷の街。もう一度、そばに来てくれたら、色は蘇るのに。そんなふうに「君は天然色」の歌詞からは、兄である松本の心情が沁みてくるようです。

「君は天然色」をはじめて聞いた時に、ポップな曲調の中に、どことなくノスタルジーのようなものを感じたのは、大瀧の曲作りのセンスだけではなかったのだな、と。



TVアニメ『かくしごと』


シンクロするアニメと音楽の世界


「かくしごと」に話を戻します。

「かくしごと」には〈おかあさん〉の姿が出てきません。作中で可久士が「男手ひとつで育てている」と言っているので、少なくとも可久士と姫は父子家庭ということになります。

そして、姫が歳ごとに開けるように年齢の書いた札を貼り付けた箱が出てきます。よく死を覚悟した親が子どもが成人するまでに残すものとして現実にもあるようですが、そうなると、姫の母、可久士の妻は故人なのかもしれません。少なくとも可久士と姫の「思い出」の中の人であることには違いがないようです。

そして、姫が高校生になり、中目黒の家と同じ間取りの七里ヶ浜の家に行く未来編では可久士は登場しません。なぜ可久士が登場しないかはネタバレになりますので、知りたい方は原作をお読みください。すくなくとも、未来編での可久士は「追憶」の中で生きている人になっているようです。

このように「かくしごと」には、ドタバタコメディの影に「思い出」や「追憶」が “かくれて” いるのです。僕にはこの部分がどうにも「君は天然色」にかくされたエピソードとシンクロしているように感じてなりません。「君は天然色」は可久士の心のうちを歌っているように思えてしまうのです。

今後、話が進むにつれて、「かくしごと」と「君は天然色」に関係性があるかどうか、明かされていくだろうと思います。さて、作者の久米田康治さん、もしくは監督の村野祐太さんは「君は天然色」のエピソードを知っていたのでしょうか?

アニメと同時期にエンディングを迎えるという原作も、ぜひあわせて読んでみてください。



アニメ「かくしごと」(amazon prime video)
『かくしごと』(全11巻)Kindle版
アニメ『かくしごと』
原作:久米田康治(『月刊少年マガジン』講談社)
監督:村野佑太
シリーズ構成:あおしまたかし
キャラクターデザイン:山本周平
音楽:橋本由香利
アニメーション制作:亜細亜堂
製作:かくしごと製作委員会
放送局:BS日テレほか

放送情報:
TOKYO MX 毎週木曜 24:00〜
[朝の家族放送]毎週日曜 11:00〜
BS日テレ 毎週木曜 23:30〜
AT-X 毎週木曜 23:30〜

配信はdアニメストアをはじめ大多数のサービスで配信中。
ただし、Netflixではやっていないのでご注意を。
やってよ、ネトフリでも!

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