『未来と芸術展』は2020年3月29日まで |
科学とアートが導く未来
森美術館において『未来と芸術展:AI、ロボット、都市、生命-人は明日どう生きるのか』がはじまった。会期は2019年11月19日から2020年3月29日まで。
これまで森美術館では「医学と芸術展」(2009〜2010年)、「宇宙と芸術展」(2016〜2017年)とアートと科学を組み合わせた独自のテーマで展覧会を企画してきた。本展はそれらの展覧会の系譜に連なるもの。これまでのふたつのテーマ展では医学と宇宙という特定のジャンルとアートとの組み合わせだったが、今回はそれらを内包しつつ、科学が導く人類にとってもっとも重要なテーマと言える「未来」をテーマに据えている。
これにより、都市論や建築、デザイン、プロダクト・イノベーション、バイオアートといった科学の最先端から映画やマンガに至るまで、より幅広い領域と現代美術との関わりを見せる構成となっている。そのため、展示されている作品は通常の美術展とは異なる。現代美術作家による作品だけでなく、世界中の建築家やデザイナー、研究者といったさまざまな分野から発信されたプロダクトや実験室のような「バイオ・アトリエ」があったり、展覧会というよりは最先端科学の展示会のような雰囲気すらある。
とにかくこれまで目にしたことのない表現の作品ばかりで、それらの形状から受ける視覚的な刺激、さらにその意味を知ってから受ける知的興奮と、刺激に満ちた異色の展覧会と言える。
5つのセクションで構成
展示は「都市の新たな可能性」「ネオ・メタボリズム建築へ」「ライフスタイルとデザインの革新」「身体の拡張と倫理」「変容する社会と人間」の5つのセクションからなり、都市、建築、ライフスタイル、バイオ、AI、ロボットと言った要素で構成されている。いま、東京で見ることができる最高の刺激といえる本展の多数ある作品の中から、印象に残った作品をセクションごとに紹介していきます。
「セクション1 都市の新たな可能性」はメタボリズムの再来を思わせる最先端の都市計画などを写真や映像、模型などで紹介しています。《2025 年大阪・関西万博誘致計画案》のように目前に迫った都市計画のプランをはじめ、さまざまな新たな都市計画像を紹介している。
セクション1 都市の新たな可能性 《2025 年大阪・関西万博誘致計画案》 |
セクション1 都市の新たな可能性 《映画に見る未来都市》五十嵐太郎 |
生き物のような建築に唖然
「セクション2 ネオ・メタボリズム建築へ」では、建築が展示の中心なのだが、そこにあったものはおおよそこれが建築?と思わざるを得ない、驚くべきものばかりだった。
ハッセル・スタジオ+EOCの《NASA 3Dプリンター製住居コンペ案》は3Dプリンタ機能を持つ自律型ロボットを火星に送り込み基地を作るという壮大な計画案。建築家・プログラマーであるミハエル・ハンスマイヤーの《ムカルナスの変異》は、1500本のアルミパイプを使ったインスタレーション。ムカルナスとはイスラム建築に見られる鍾乳石のような形状をもった伝統的な装飾構造をアルゴリズムとコンピュータを使って作り出している。
セクション2 ネオ・メタボリズム建築へ 《NASA 3Dプリンター製住居コンペ案》ハッセル・スタジオ+EOC |
セクション2 ネオ・メタボリズム建築へ 《ムカルナスの変異》ミハエル・ハンスマイヤー |
デイビッド・ベンジャミン《ザ・リビング》は、キノコ菌糸によってつくられた「有機キノコ煉瓦」を建材とした建築物で、解体後は微生物に分解される。エコ・ロジック・スタジオ《H.O.R.T.U.S. XL アスタキサンチン g》は3Dプリント出力したブロックに微細藻類ユーグレナ(ミドリムシ)を埋め込んだバイオスカルプチャー。WOHA《オアシア・ホテル・ダウンタウン》はシンガポールにある高層ビルで、赤いメッシュの外構部分が植栽で覆われている。
セクション2 ネオ・メタボリズム建築へ《H.O.R.T.U.S. XL アスタキサンチン g》エコ・ロジック・スタジオ |
セクション2 ネオ・メタボリズム建築へ 《ザ・リビング》デイビッド・ベンジャミン |
セクション2 ネオ・メタボリズム建築へ 《オアシア・ホテル・ダウンタウン》WOHA |
驚きと興奮の連続。なのにどこか既視感
「セクション3 ライフスタイルとデザインの革新」ではファッションやフードなど、より身近なジャンルの未来を見ることができる。個々の作品には新鮮な驚きがあるし、ワクワクするような未来がある。
とりわけ、フードファブリケーションマシンが作り出した寿司の粉末焼結雲丹には思わず笑いが出てしまった。でも、回転寿司や寿司ロボットを作り出した日本なら、これは十分ありうるな、と。しかし、これらが示してくれるのはあくまで僕たちがこれから経験する未来のはずだが、なぜか既視感がある。この感覚はなんなのだろう? それを知るには何度か見に行く必要がありそう。
セクション3 ライフスタイルとデザインの革新 《「インターナル・コレクション」シリーズ》エイミー・カール |
セクション3 ライフスタイルとデザインの革新 《LOVOT(らぼっと)》 |
セクション3 ライフスタイルとデザインの革新 《SUSHI SINGULARITY》OPEN MEALS |
バイオアートの違和感、マンガの安心感
本展を見ていて強く感じたのは、明るいワクワクするモノばかりではないということ。中に「MADだっ!」と叫んでしまいそうなものもあり、この分野に対するイマジネーションに不安を感じた。
展覧会後半部の医療分野を題材にした「バイオ・アトリエ」では、ディムート・シュトレーベによるゴッホが自分で切り落としたとされる左耳を現代のバイオ技術で再現した《シュガーベイブ》など、異形のものが続く。
とりわけアギ・ヘインズの「変容」シリーズには嫌悪感をおぼえた。親が子どものことを思って、新生児に外科的身体拡張を施す、というものなのだが、外見の変更には誰もが大きな違和感を感じるだろう。しかし、パラアスリートの例を出すまでもなく、身体拡張は人類にとって喫緊の課題だ。
セクション4 身体の拡張と倫理 《シュガーベイブ》ディムート・シュトレーベ |
セクション4 身体の拡張と倫理 《「変容」シリーズ(体温調整皮膚形成手術)》アギ・ヘインズ |
もちろんそういったモノばかりではない。パトリシア・ピッチニーニのように、初見だとグロテスクに感じるかもしれないが、過去に何度も見て知っていれば愛おしくもあり、ようやくアートの展覧会にきた、という印象すらある。
そして、最後の最後に展示されていたのが手塚治虫《火の鳥》(撮影不可)。心から安心できる作品が用意されており、さすがの構成と感じた。
ここで急に合点が行く。僕たち(とりわけ日本人)は子どものころから、さらに先の未来を妄想していた手塚のようなクリエイターたちの創造物を目にしていた。それが、新しいものであっても、どこかで見たような気にさせてしまうのかもしれない、と。
セクション4 身体の拡張と倫理 《親族》パトリシア・ピッチニーニ |
セクション5 変容する社会と人間 《Boundaries》ANOTHER FARM |
『未来と芸術展:AI、ロボット、都市、生命――人は明日どう生きるのか』
会期:2019年11月19日(火)~2020年3月29日(日)
会場:森美術館
会期:2019年11月19日(火)~2020年3月29日(日)
会場:森美術館
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